古来、我が国には縞(しま)という呼び名はなく、筋(すじ)と言われていました。室町時代に外国船がもたらした舶来品(はくらいひん)を「島渡(しまわた)りの布」という意味から「島物(しまもの)」と呼び、やがて「島」を筋(すじ)の意味に使い「縞(しま)」の字を当てるようになりました。縞(しま)には、棒縞(ぼうじま)、千筋(せんすじ)、子持縞(こもちじま)、間道(かんとう)、唐桟(とうざん)など、実に多くの呼び名があり、縞が着物の中心であったことがわかります。木綿(もめん)の縞柄が普段着の主流であったなかで、江戸時代からは絹の縞も織り出されます。八丈縞(はちじょうじま)、黄八丈(きはちじょう)、結城紬(ゆうきつむぎ)、上田縞(うえだじま)などの紬類、仙台平(せんだいびら)などの袴地も縞柄の織物です。こうして縞柄のきものは普及し、身近な存在となっていきます。
縞(しま)の着物は「粋(いき)の真髄(しんずい)」と言う人があります。極めれば、それだけ奥が深いということは確かですが、麻(あさ)や綿(めん)の普段着(ふだんぎ)から格式(かくしき)の高い江戸小紋(えどこもん)や男物の袴(はかま)まで幅広くあります。そう思えば、取り分け難しく考える必要はないかも知れません。いずれにしても、着こなしのポイントは、対比調和(たいひちょうわ)のバランス感覚が大切です。
きりりと締まった直線模様に、くっきり浮かぶ帯の色。渋味(しぶみ)の中にも、まろやかな風情(ふぜい)が漂(ただよ)います。幾何学模様(きかがくもよう)の縞柄(しまがら)には、花鳥柄(かちょうがら)の帯なら無難に乗ります。優(やさ)しい雰囲気(ふんいき)なら染名古屋。格(かく)が欲しければ箔(はく)の九寸帯(きゅうすんおび)。黒の羽織(はおり)を羽織(はお)れば色無地(いろむじ)と同格(どうかく)になります。お洒落(しゃれ)に着るなら博多の八寸帯(はっすんおび)でしょう。縞を着れば、下半身は直線的でスラーッと見えます。反面、上半身は衿足(えりあし)からバスト、そして腰へと体のカーブが強調されて色っぽく感じます。ストライプが柔らかい女性特有のボディラインの美しさ「艶(あで)やかさ」を引き立ててくれるのです。
縞(しま)は、着物ばかりではありません。縞の羽織は格調(かくちょう)高く、時にお洒落(しゃれ)です。大島紬(おおしまつむぎ)に博多帯(はかたおび)。そして縞の羽織がそろえば風格も出ます。昔は、粋(いき)なお師匠(ししょう)さんの定番でした。惜(お)しげもなく着尺(きじゃく)を断(た)ち切り羽織にしたものです。弟子(でし)は、師匠(ししょう)の域(いき)には、なかなか到達(とうたつ)できないものの、羽織を着る日をいつか夢見たものでした。(資料:着こなし入門講座)